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―文宝四宝 その2「墨」―

 今年も除夜の鐘を聞きながら新しい墨をおろしました。
昨日から今日の何の変哲もないことですが、やはり年越しの夜は、一年の重みのせいかさまざまな事を思います。何かにけじめをつけ、新しいものへの仄かな希いなど思いつつ静かにゆっくりと摩ってゆく墨は、墨気の言葉通り瑞々しく色鮮やかな墨色です。
 今年は知人からの頂き物、貴重な古墨を使いました。まわりを全て金で化粧した、舟型の三丁型の和墨です。予想以上の深く力強い墨色に思わず老子の「道法自然」などと書きました。去年は柔らかでやさしい淡墨の美しさに何本も線だけひいたものでしたが・・・。
  ところでこの不思議な魅力ある墨は、ずっと昔、火が使われ始めた頃黒い煤で書いたりしていたのが、あるとき鳥や魚の煮汁と煤がくっついて黒い塊ができ、それで書いたら消えないことから発したといわれています。
 墨の原料は膠と煤。膠は煮皮と言われるくらいで、接着剤の役目をしたのですね。
 さて、墨の磨り方は書技の第一歩といわれていますが、特別なことはありません。墨をなるべく濡らさないように心がければよいのです。時々硯いっぱいに水を張って、ジャブジャブすくうようにして磨る人がいますが、墨はいったん水に濡れると膨潤し、乾いても元に戻りません。そのまま小さな亀裂が残りますので、これを何度も繰り返すと欠けてしまいます。
きれいな硯の岡の上に少量の水を注ぎ、濃く磨って海に流し、また少量の水を入れて磨る、を繰り返すのが基本です。とろとろになるまで濃く磨ったものを薄め好みに合わせて使うとよいでしょう。小さくなった墨どうしは墨汁を断面に塗るとくっつきます。そうすると無駄なく使えます。
  冬場は解膠が遅いので墨の下りは遅くなるし、水温が低すぎても硯が冷えてもよい墨は下りません。しかし、室温の心配をしなくてもよい現在では問題はないようですね。墨は温度変化により膨張したり収縮したりします。使用後はきれいに拭いて、耐湿性・耐乾性に富む桐の箱などにしまうのがいいです。
 墨の色は単色にして無限。
私もその魅力に一生魅了され続けることでしょう。線を引けるようになったら次は墨色です。いろいろ試してみてはいかがですか。
2007年1月13日 池田 櫻

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